花火写真の撮り方講座〜第4章 カメラの設定〜
花火系散歩屋のおーわ(@mof_mof08)です。
花火の写真を撮影するにあたって必要になる知識やテクニックについて、全9章の講座形式で紹介していく本シリーズ。
第4章では花火写真の撮影における基本的なカメラの設定について解説していきます。
普段オートやセミオートで撮影している方にはやや敷居が高いかもしれませんが、ひとたび覚えてしまえばどの花火大会でも使いまわせますので、ぜひ押さえておきましょう。
本記事を読み進めていただくにあたってカメラの露出(絞り、シャッタースピード、ISO感度の関係)に関する知識が必要になります。
花火写真の撮影における基本的なカメラの設定
花火写真の撮影におけるカメラの設定をざっくりまとめると以下の通りとなります。
撮影モード | マニュアルモード(M)もしくはバルブモード(B) |
---|---|
シャッタースピード | バルブ(Bulb) |
ISO感度 | ベースISO感度 |
絞り(F値) | 花火により異なる(単打ち:F4.0〜8.0、スターマイン:F11〜16程度) |
ホワイトバランス | 花火により異なる(和火:5000K前後、洋火:3500K前後) |
フォーカス | マニュアルフォーカス(MF) |
長秒時ノイズ低減 | オフ |
手ぶれ補正 | オフ |
記録形式 | RAW(+JPEG) |
花火写真の撮影はいわゆる光跡の撮影で、花火が打ち上がってから消えるまでには一定の時間がかかるため、都市夜景などと同じく長時間露光(スローシャッター)を用います。
ただし、都市夜景などとは以下の点で異なります。
- 花火の打ち上がるタイミングおよび露光時間がまちまち
- 被写体の花火が非常に明るい
とどのつまり、変則的な長時間露光をしつつカメラへ入ってくる光の量を抑える設定を施す必要が出てきます。
撮影モード:マニュアルモード(M)orバルブモード(B)
撮影モードはマニュアルモード(M)もしくはバルブモード(B)に設定します。
先述の表でも触れていますが、花火写真の撮影では露出に関する設定を以下のように施します。
- 絞り(F値):特定の値で固定(※花火の種類により調整)
- シャッタースピード:バルブ(Bulb)で固定
- ISO感度:ベースISO感度で固定
上記の設定を実現できる撮影モードはマニュアルモード(機種によってはバルブモード)になります。
マニュアルモード(M)とバルブモード(B)のどちらを選ぶかについてはカメラメーカー毎に異なります。
マニュアルモード(M) | Canon(下記以外)、Nikon、SONY、OM SYSTEM(旧OLYMPUS)、Panasonic |
---|---|
バルブモード | PENTAX、Canon(一部機種) |
詳しくはお手持ちのカメラの取扱説明書などをご確認ください。
カメラの撮影モードについて詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
シャッタースピード:バルブ(Bulb)
続いて、シャッタースピードをバルブ(Bulb)に設定します。(※撮影モードがバルブモードの場合は自動的に設定されます)
詳しくは花火写真の撮り方講座〜第7章 綺麗に撮影するコツ〜で解説しますが、ざっくりとした流れは次の通りとなります。
- 花火が打ち上がる直前でシャッターを開ける
- 花火が消えたところでシャッターを閉じる
花火が打ち上がってから消えるまで数秒〜数十秒かかるため、一連の流れを収めるために長時間露光と呼ばれる撮影技術を用いります。
長時間露光は都市夜景や星景などの撮影にも用いられますが、花火は打ち上がってから消えるまでの時間がまちまちなため、シャッタースピードを固定すると綺麗に撮影できません。
ではいったいどうすれば良いのか…そこでバルブ(Bulb)の出番となるわけです。
バルブとはいわゆる「調整弁」で、液体などの流量を調整するために用いられます。
カメラにおけるバルブも仕組みは同じで、撮影者が任意のタイミングでシャッターを開閉して光を取り込むタイミングと時間をコントロールできるようになります。
撮影者が意図する花火写真へと近づけるためには、シャッタースピードをバルブに設定する必要があると押さえておきましょう。
ISO感度:ベースISO感度
特別な理由がない限りベース感度(基準感度)に設定するのが望ましいでしょう。
花火写真を綺麗に撮影するためには長時間露光が求められる反面、非常に明るい被写体がゆえにISO感度と絞り(後述参照)を使って露光量を抑える必要があります。
このうちISO感度についてはベース感度にするのが個人的におすすめですが、その理由としては次の通り。
- カメラに入ってくる光の量を最大限まで抑えられる
- 写真の品質(画質)を担保できる
- 三脚を用いるため手ぶれを気にする必要がない
参考までにベースISO感度はお使いのカメラメーカーによって異なり、ざっくり以下の通りとなります。
Canon | 100 |
---|---|
Nikon | フルサイズ機の一部:64/その他:100 |
SONY | 100 |
PENTAX | 100 |
FUJIFILM | 125、160、200のいずれか(機種により異なる) |
OMDS(旧OLYMPUS) | 200 |
Panasonic | フルサイズ:100/マイクロフォーサーズ:200 |
副題の黒つぶれが気になる方は、必要に応じて調整してみてください。(増感すると露出オーバーの確率が上がるので注意)
拡張感度によって基準感度よりも減感できる機種もありますが、画質に悪影響を及ぼすためおすすめしません。
絞り(F値):花火に応じて調整
絞りについては花火の種類や打ち上げ方、カメラのベースISO感度によって変わってきます。
シャッタースピードのところでも述べたように、花火は非常に明るい被写体となる一方で、光跡を撮るために数秒~十数秒程度の長時間露光が必要となります。
そのため、先述のISO感度と合わせて絞りを絞る(F値を大きくする)ことで、光を取り込む量を抑える必要があります。
花火の明るさは単打ちとスターマイン、色合いなどで大きく異なりますが、目安としては以下の通りとなります。
花火の種類・色合い | 絞り(F値) |
---|---|
和火 | F2.8~4.0 |
青色の花火 | F5.6~8.0 |
紅色の花火 | F8.0~13 |
中間色(パステルカラー)の花火 | F11~16 |
銀冠菊 | F11~16 |
雷 | F20~27 |
和火や青色系の暗めの花火では開放気味に、中間色(パステルカラー)や白色系の花火では絞るようにしましょう。
花火の種類がイマイチよく分からない方は、以下を目安に設定してみてください。(NDフィルターを使用しない場合)
- 単打ち:F4.0~8.0程度
- スターマイン:F11~16程度
なお、絞りを絞りすぎると回折現象(小絞りボケ)によって画質が落ちるため、気になる方はNDフィルターを併用した上で絞りを少し開放(1~2段程度)することをおすすめします。
ホワイトバランス:花火に応じて調整
花火写真の撮影において悩ましいのがホワイトバランスですが、打ち上がる花火によって大きく異なります。
目安としては以下の通りとなります。
花火の種類・色合い | ホワイトバランス |
---|---|
和火 | 晴天(太陽光) |
青色の花火 | 電球 |
紅色の花火 | 電球 |
中間色(パステルカラー)の花火 | 電球 |
銀冠菊 | 電球 |
雷 | 電球 |
すごーくざっくりいえば和火は高めの色温度でそれ以外は低めの色温度に設定すると、おおむね自然な色合いが出せると考えていただければと思います。
花火は色の変化が大きいかつ撮影中は設定を簡単に動かせないため、しっかりと色味を追い込むのであればレタッチは必須になります。
>> 花火写真の撮り方講座〜第9章 完成度を高めるレタッチ術〜
ただし、レタッチを前提とする場合でもある程度カメラで追い込むことをおすすめします。
フォーカス:マニュアルフォーカス(MF)
撮影時には必ずマニュアルフォーカス(MF)に切り替えておきましょう。
その理由として以下の2点が挙げられます。
- 厳密なピント合わせができる
- 撮影中の不意なピント移動を防ぐ
MFに苦手意識がある方は明るい時間帯にオートフォーカス(AF)を使うのも手ですが、厳密に合わせるのであればMFでの調整がおすすめです。
AFで調整される場合、撮影前にMFへの切り替えを忘れずに行いましょう。
切り替えを忘れるとシャッターを切る手前でフォーカスが動いてしまい、肝心なタイミングでシャッターが切れなかったり、ピンボケして花火の線が綺麗に出なくなってしまいます。
長秒時ノイズ低減:オフ
長秒時ノイズ低減も忘れずにオフにするようにしましょう。
長秒時ノイズ低減とはシャッタースピードが長い写真に対してノイズ低減を行うための画像処理機能で、以下のような特徴があります。
- 長時間露光で撮影した写真1枚ごとに処理が行われる
- 処理には数秒~十数秒程度要する
- 処理が行われている間はシャッターが切れない
長時間露光が前提となる花火写真ではありがたい機能に思えるかもしれませんが、次々に打ち上がる花火に対してテンポよくシャッターが切れなくなるため、実は花火写真の撮影とは非常に相性の悪いのです
貴重なシャッターを逃さないためにも、長秒時ノイズ低減の切り忘れには注意しましょう。
手ぶれ補正:オフ
手ぶれ補正についても忘れずにオフへ変更しておきましょう。
手ぶれ補正をオンのまま撮影してしまうと微妙なブレが生じてしまう可能性があるというのが大きな理由です。
実は手ぶれ補正機能で効果があるのは手持ち撮影で起こる低周波のブレのみで、三脚などから伝わる高周波のブレは正しく拾えないかつ補正できません。
三脚の利用が前提となる花火写真の撮影では逆効果となってしまうため、忘れずにオフにしておきましょう。
カメラによってはシャッタースピードをバルブ(Bulb)にすると自動的に手ぶれ補正がオフになりますが、念のため確認しておきましょう。
記録形式:RAW(+JPEG)
記録形式についてはRAW(+JPEG)が個人的におすすめです。
デジタルカメラにおける記録形式には大きくRAWとJPEGの2種類があり、両者の違いはざっくり以下の通りとなります。
画像形式 | RAW | JPEG |
---|---|---|
情報量 | 多い(12〜14bit) | 少ない(8bit) |
容量 | 大きい | 小さい |
JPEG書き出し時の画質 | 劣化しにくい | 劣化する |
分かりやすく食べ物に例えるなら、RAWは食材でJPEGは料理に相当します。
花火は一つのプログラム中で異なる明るさおよび色合いの花火が打ち上がるため、写真の完成度を高めるのであればレタッチはほぼ必須になります。
その際、JPEGに対してレタッチおよび再変換を施すと画質が劣化してしまいます。(このような特性を非可逆圧縮ともいいます)
撮影後にレタッチを施す予定がある場合には、RAWでの記録をおすすめします。
少々マニアックなお話になりますが、デジタル写真が作成されるまでの流れはおおむね以下の通りです。
- カメラのイメージセンサーで受光
- 受光した情報をデジタル変換しRAW(素材)を生成
- カメラ内部もしくはソフトウェアにてレタッチ(調理)
- JPEG(料理)へ変換・出力
巷でよく聞く「JPEG撮って出しの写真」はカメラメーカーが組み込んだ色情報などを自動的に適用(レタッチ)して出力されたもので、決して無加工のデータではありません。
まとめ
本記事では花火写真の撮影におけるカメラの基本的な設定について紹介してまいりました。
最初はちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、いったん設定を押さえてしまえばおおよそどんな花火でも対応できますので、ぜひマスターしておきましょう。
第5章では花火写真における構図の考え方について紹介していきます。